建設業務では様々な重量物を運搬・組立したり、使い方を誤ると凶器にもなりえる道具や設備などを使うため、労働者は常に危険と隣り合わせています。危険度が高い職種な分、実際に起きた事故や損害賠償の事例も少なくありません。この記事では建設業に関する損害賠償リスクについて説明し、関係する法律などを紹介したいと思います。
1.建設業で実際にあった損害賠償事例
損害賠償という言葉はニュースなどで頻繁に見聞きするので、そのニュアンスについてはなんとなく知っているという人は多いでしょう。しかし労働現場における損害賠償の発生については「イマイチよく分からない」という人も多いのではないでしょうか?
建設業現場で働いている人は非常に多いので、他人事とは考えずに業務上過失や損害賠償について知っておくのは良いことです。
日本の全業種の中で建設業での死亡事故は33%と最も高い割合を占めています。建設現場では高い所での作業が多く足場からの転落や墜落などが目立ちます。また高い所から工具や資材を落下させたというような事故も少なくありません。
建設業での損害賠償や判決事例
では実際に建設業関連で起きた事件や損害賠償の例を見ていきましょう。
・鉄パイプ落下死亡事故
2016年10月に東京都港区六本木のマンション工事現場から足場用鉄パイプが落下し、歩行中の男性に直撃して死亡する事故が発生しました。結果として工事を担当したリフォーム会社の現場監督と足場作業責任者が書類送検されました。この事件では業務上過失致死の罪で原告が作業員など関係者を告訴していました。
現場監督も責任者も鉄パイプを固定する留め具点検を全く行っていなかったほか、歩行者への誘導措置もしていなかったため責任を追及されました。労働安全衛生法違反に問われた会社には罰金50万円、作業責任者には禁錮1年6か月(執行猶予4年)という判決が下りました。会社の現場監督の業務上過失致死罪の訴えについては公判が続いています。
・クレーン横転死亡事故
東京都千代田区のビル建設工事現場では作業中のクレーンが倒れた結果通行人女性が死亡しました。その結果元請建設工業の現場責任者、工事担当者、下請け社員、クレーンオペレーターら4人が業務上過失致死傷容疑で書類送検されました。調べによると元請業者はクレーンの操作場所の安全性を確認するなどの適切な対応を怠っていたようです。
このように建設業では死亡事故など大事故につながるリスクがたくさんあります。ちょっとした不注意や「安全を確保する対策をしない」という意味での業務上過失が取り返しのつかない事態を生むことがあるので、作業員も監督も最新の注意を払わないといけません。
2.建設業に注意すべきトラブル
建設業は事故が起きやすい業種の一つですが、業務上過失によるトラブルを起こさないためにはどんなリスクがあるのかをよく知っておくことが大事です。建設業者の注意すべきトラブルをいくつかご紹介します。
・落下トラブル
建設業では様々な資材や工具を利用しますが、小さな工具でも金属製のツールはかなり重量があります。さらに建設現場では高さがある場所からの作業が必然と多くなるため、落下トラブルは非常に危険です。実際に先述の鉄パイプ落下事故のような被害が発生しています。
・火災系トラブル
建設業では電気も使いますが、電気配線ミスが原因で漏電が起きると火災が発生して、住居はおろか人命も危険にさらされることがあります。
・特殊車両によるトラブル
大掛かりな建設作業ともなると特殊車両を使いますが、フォークリフトやクレーン車、パワーショベルなどの大きくパワーのある車両はちょっとした操作ミスで大事故を引き起こす可能性があります。ケガや建物の破損などはよくあるケースですし、上記の事例のように死亡事故が発生することもあります。
建設業従事者が意識すべき「安全配慮義務違反」とは
建設業従事者が特に意識すべき罰則があります。それは「安全配慮義務」です。安全配慮義務とは社員が安全で健康に労働できるように配慮するという会社側の義務のことです。労働契約法の第5条には以下のような規定があります。
・第5条(労働者の安全への配慮)
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
建設業においては作業員の不注意などで事故が起きた場合でも、管理者や現場監督がこの安全配慮義務違反で責任を問われることがあります。代表的な例としては以下の事例があります。
・O技術(労災損害賠償)事件
ある孫請け業者の従業員は土壁と鉄板にはさまれて死亡しましたが、遺族は安全配慮義務違反があったとして元請業者を訴えました。元請業者の現場代理人による一般的な安全教育は行われていたものの、作業に関する直接的指示はなく下請け業者の現場代理人も現場にいませんでした。結果として安全配慮義務違反が認められ約4,341万円の損害賠償が認められました。
このように直接の作業場のミスがない場合でも、管理者側が必要な安全措置を怠るという過失を起こしたために損害賠償が発生することがあります。ですから建設業作業員だけでなく管理者側にも注意が必要です。
3 .まとめ
建設現場には常に危険が隣り合わせているので、管理者も作業員も細心の注意を払って業務を遂行する必要があります。建設業に関連した死亡事故はとりわけ多く、現場内の事故はもとより業務とは関係ない第三者への被害も少なからず報告されています。
業務の性質上建設業での業務上過失は取り返しのつかない事態を引き起こしやすい傾向があるため、管理者ならば安全配慮義務を重視し、作業員は手元に集中して万全の心構えで作業を行うようにしましょう。